『 あなた と わたし と ― (1) ― 』
カツン カツン カツン ・・・
でこぼこの石畳が 甲高い音をたてる。
・・・ うん?
フランソワーズは 舗道の端に寄り、自分の靴の裏を確かめた。
「 ・・・ あれ。 べつになにも踏んでないわねえ 」
彼女はちょいと首をかしげる。
あまりの靴音の高さが気になってしまったのだ。
「 ヘンねえ・・・ この靴のカカト、そんなに固くないはずよ? 」
しげしげと自分の靴を眺めていたが ― あ ・・・っと気付いた。
「 ・・・ ああ ・・・ すっかり忘れていたわ 」
淡く微笑むと 彼女は靴を履き直しそのまま進んで行った。
ふふふ ・・・ そうでした。
ずっとあそこで過ごしていたから。
そうよ 砂やら土が多いし。
お稽古場がある街も 緑がたくさんだし。
だから靴音は そんなに聞こえなかったのよ
・・・ 湿気の多い空気のせいかもしれないけど。
ねえ ここは わたしの街。
― わたし。 巴里の道を忘れていたわ。
頬まで引き上げていたスカーフを 少し下げた。
つう〜〜ん ・・・ と冷えた大気が咽喉に当たる。
振り仰ぐ空は どんより灰色の雲に覆われ太陽は勿論みえない。
「 ふふふ ・・・ そうよね これが深い秋、よね ・・・ 」
落とした視線の先には 灯りを点け始めたカフェやら店舗が並ぶ。
行き交う人々も コートの襟を立て頤をマフラーの中に埋めたりしている。
「 これが秋の空気 ・・・ ちゃんと知ってるのに。
― あの明るい空 たか〜〜く晴れた青空が恋しいのは なぜ・・・? 」
指先に当たるスカーフを 口元に持ってゆき軽く唇に当てる。
あの町では あまり使っていなかった ・・・ 暖かすぎるので。
本当は ちょっともったいなくて使えなかっただけど・・・
今 故郷のこの街では温かくのど元を護ってくれているのだ。
「 可笑しなフランソワーズ。 ここが故郷 でしょう?
ずっと帰ってきたかった街 でしょう? 」
肩にかかった大きなバッグを もう一度抱え直した。
「 さあ ― レッスン よ。
オープン・スタジオだけど なかなか評判がいいらしいわ。
ねえ フランソワーズ? 踊れるのよ〜〜 」
カツン カツン カツン −−−−
靴音高く 彼女は広い舗道を歩いて行った。
*************
大脱走やら 各地転戦の後 ― 初めてこの地に定住した頃。
彼はとても張り切っていた。
「 あ 買い物? 食料品だよね〜 ぼく 行ってくるよ?
あ〜〜 見たい? そっかあ〜 それじゃ 一緒に行こうよ 」
スーパーへの買い出しも 率先して出掛けてくれる。
「 荷物? あは それくらいかる〜〜〜く持てる けど。
ま いちお〜 周りの目もあるから ・・・ 自転車、もってく。
うん 荷台に盛り上げてくれていいよ〜〜 」
そして 文字通り 山盛り の荷物を自転車に乗せ
ひょいひょい あの急坂を上ってくる。
へ え ・・・?
ああ 彼はとても 若い のね ・・・
そうよね ほんの少し前まで
ホンモノの18歳 だったんだもの
― 若さって ・・・
ああ もう考えるのをやめなくては
元気クン がんばってね
ありがたかったけど ちょいとばかり鼻白む気持ちあり、
なんとなく距離をとっていた。
「 あのさ 食品以外だったらね〜
駅の向うにでっかいショッピング・モールがあるんだ〜
行ってみようよ? 」
日用品以外の 個人的な買い物にも気軽に付き合ってくれた。
衣食住 は確保できたが < 普通に > 暮らしてゆくには
それ以外のモノも必須になってくる。
「 あは オンナノコが好きっぽいお店もいっぱいあるよ?
うん カード使えるよ。 ぼく 角の本屋で待ってるからさ
ゆっくり見ておいでよ 」
若いわりには 案外細やかに気が回るようだ。
・・・ へえ ・・・?
ま 適当に付き合っていけばいっか・・・
一緒にいても不愉快なヒトではなさそうだし
同じ家で暮らすんですものね
負の感情は持ちたくないわ
彼女は無関心な顔をしていたが しっかりと観察している。
「 あ〜〜 なにかあったら 何でも聞いて?
トウキョウに行く? 送ってゆくよ〜〜 」
「 メルシ。 ・・・ あの 大丈夫よ。
だけど地図とか 描いてくれると助かるんだけど 」
「 地図? スマホを使ったら?
あはは ぼく、 絵って得意じゃなくて・・・
間違えると困るからさあ ほら・・・ ここ。 マップ って。 」
「 あ ・・・ 随分便利ねえ 」
「 現地撮影動画 もあるよ こっち
」
「 ・・・ わあ ・・・ すごい ・・・ 」
教えてもらったスマホ頼りに 都心まで出ることもできた。
なかなか ― 住み易いトコ ね?
フランソワーズは 次第にこのちょいと風変りな国になじんでいった。
「 ぼく さ。 えへへ ・・・皆に頼りにされるって 初めてなんだ。
こんなぼくが さ。 ・・・ へへへ 嬉しくて
なんかいろいろうるさくきいて ごめん 」
最後に加わった茶髪の少年は 照れ笑いをしつつ そんなコトを言う。
彼はこの地域の出身で 地元事情に詳しかった。
ついつい 細かな日常のことも聞いてしまう。
すると 彼は嬉々としてとても丁寧に教えてくれるのだ。
「 ・・・ なんだけど。 あ ぼく 行こうか? 」
「 う〜〜ん ちょっち重たいからさ〜 ぼく やるよ! 」
最初は不慣れなこともあり かなり彼に頼ってしまった。
「 あ ありがとう。 でも 教えてもらったから・・・
自分で行ってみるわね 」
フランソワーズも少しづつ < 外の社会 > に
足を踏み出し始めた。
「 そう? なにかあったらすぐに言って・・・
あ そうだ〜〜 迷惑じゃなかったら ― 買い物、一緒にゆくよ? 」
「 え ・・・ いいの? 」
「 ウン 全然。 下の商店街とかさ 面白いとおもうよ〜 」
「 そ そう? しょうてんがい って マルシェみたいなとこ? 」
「 まるしぇ? ・・・ あ〜 市場のことかあ ( ← 自動翻訳機使用 )
あ うん そんなもんさ いろんな店があるよ 」
「 ふうん ・・・ 面白そう 」
「 じゃ 行こ! 岬の家に住むことになりました〜〜っていえば
皆 へえ・・・・ で済むからさ 」
「 そうなんだ ・・・ なんでも知ってるのね 〜〜 」
「 いやあ〜 えへへ ・・・ なんか 嬉しいや 」
そんなこともあり 彼は日々 とてもとても張り切っていた。
へえ ・・・
なんだか 変わったコねえ
印象的な笑顔ねえ ・・・
ま 悪い気はしないけど ね
東洋人の知り合いは初めてだったが 気持ちのいい同居人だった。
彼も この地での暮らしが、そして 一応 < 家族 > との生活が
気に入っている らしい。
茶髪の彼は しまむら じょー とう名だった。
― それから。
ちょいとした小競り合いやら 面倒事もあったけれど
まずまず ― 穏やかに暮らすことができた。
レッスンに参加できるバレエ・スタジオを見つけ 再び踊りの世界へ
足を踏み入れた。 そして夢中になった。
― フランソワーズ自身も この家での生活が気に入り始めている。
「 あの・・・ バイト 行ってくるね〜 」
ジョーが ダウン・ジャケットをもこもこさせている。
「 あら ・・・ その恰好、ちょっと早くない?
真冬に着るものでしょう? そのジャケット ・・・ 多分。 」
「 え? あ そっかな ・・・ ぼくさ パーカーの後は
いっつもダウンなんだ ・・・ それっきゃもってなくて・・・
ははは あ イッテキマス。 」
「 そう? あ〜〜 < おべんとう > 作ったの!
サンドイッチだけど ・・・ よければ持っていって・・・ 」
「 え!? うわ〜〜〜 うわ〜〜〜 ありがとう!! 」
「 ・・・ あのう ごく普通のサンドイッチなんだけど
いいの? 日本風の おべんとう じゃないけど・・・ 」
「 いい いい!! 手作りの弁当って最高だよぉ〜〜〜
サンキュ〜〜〜〜 あ めるし〜〜〜
わあい〜〜 イッテキマス〜〜〜 」
ジョーは 差し出された包を両手で受け取り
文字通り 小躍りしつつ出掛けて行った。
「 ― いってらっしゃい ・・・
やっぱ 変わってるわねえ ・・・ ジョーって ・・・ 」
ぴんぴん癖毛を揺らし 遠ざかってゆく姿を
彼女は 妙に感心しつつ見送った。
「 ただのサンドイッチなのに ・・・ そんなに嬉しいのかなあ
うふふ ちょっとうれしいかも・・・
彼 なにが好きなのかしら ・・・ 日本人ってどんなの 食べてるかしら 」
彼は 本当にぴんこ ぴんこ跳ねて坂を降りてゆく。
「 なんか・・・うさぎ というより 喜んでいるわんこさんみたいね〜
ジョーって 楽しい人 なのかなあ ふふふ ・・・ 」
笑みがこぼれてきたが ふと。 足が止まった。
あれが 彼の本質 なの・・?
― え? あれが 009 ??
戦闘中の あの冷徹で冴えた視線。 そして 仮面のような顔。
側にいるだけでも ぴりりと殺気を感じ鳥肌がたつ思いだった。
最後に仲間になって戸惑っていたのはほんの最初だけで
彼は闘いの度にその鋭さを増して行った。
・・・ すご い ・・・・
どんどん強くなってゆくわ
闘うマシン になれるのね
― これが < 最新型 > なのか、と痛感してしまった。
戦闘の中での009を思い出すと ひやりと心が冷える。
・・・ 本当の しまむら じょー って ?
彼は ほんとうの彼は どんなヒトなの
009 が 彼なの それとも
しまむら じょー が 彼なのかしら
― 怖い ・・・ ひと
思わず沸いてきた思いを 慌てて打ち消した。
この明るい空の元では 考えられないことだ、と思ったからだ。
ううん ううん!
きっとそれは ― 異常な状況での幻覚
そうよ そうに違いないわ
だって ―
彼には あの微笑がぴったりだもの
アタマを振って 暗い思いを追い出した。
目を凝らせば ぴんこぴんこ跳ねる姿が坂の下に消えるところだった。
「 ・・・ ふう ・・・ イッテラッシャイ 」
いってらっしゃ〜い と 手を振って誰かを送りだす ―
そんなごく普通のコト にも胸がチリリ・・・と傷んだ。
ごく当たり前の日々 が こんなにも新鮮に思える ― そのこと自体に
ぞっとし 背筋に冷たいものが走ってしまう。
こんな日 ・・・ あった かしら ・・・
・・・ああ あったかもしれないわ
そう 普通のヒトとして 生きていたころ・・・
「 お兄ちゃん ・・・ そうだわ アパルトマンの窓から出勤してゆく
兄さんに手を振ってたっけ ・・・
パリの空は いつまでも灰色で ・・・
そうよ 春も盛りのころにやっと青くなってたわね 」
この真っ青の空 ― 初冬のきんきんに晴れた空・・・
その果ての果てまで追ってゆけば あの頃に戻れる かもしれない。
何も知らず 明日は今日と同じ日が必ず来る と信じて疑わなかった頃に。
傷つきやすい、しかし驚くほどしなやかである意味強靭な肉体に
いつもしっかりと前を見つめるこころを入れて ― 笑っていた時代に ・・・
戻れる かしら ・・・
彼女はごく自然に 記憶を遡らせてゆく。
・・・ お兄さん ・・・
ランチを作ったことはなかったけど
もし 作ってたら 持っていってくれた?
ああ そうだわ
お母さんから習ったミート・パイ、
大好物って言ってくれたっけ・・
どうしても仕事に持ってゆく、というから
切り分けてタッパーに入れたっけ・・・
< おべんとう > っていうの、いいわよね
そうだ、今度 日本風のおべんとう にも
挑戦してみるわ !
日常の ほんの当たり前のことも新鮮に思えた。
明日が今日の延長で 穏やかに過ぎてゆくことに感動していた。
そんな 彼らには この人里離れた辺鄙な地、
海辺の崖に建つ邸は 恰好の隠れ家だった。
あまりな運命の大嵐に翻弄され 文字通りの逃亡劇の末の日々・・・
擦り切れそうな心と身体を メンバーの誰もがゆっくりと癒していった。
ここにずっと暮らす ― そう決心した彼女には 一際その感が強かった。
今まで 気付かず過ごしてきたことに 目を見張る。
それだけの 余裕が生まれた、ということなのだろうか・・・
波の音って 時間によって変わるのね
こ・・・んなに青いの?? 空って・・・
温かいわ ・・・ 冬なのに日焼けしそうよ?
え この赤い葉っぱって 造花みたい ・・・
フランソワーズは なにげない日差しの温もりや 葉っぱの影に
こころを魅かれ 満たされ 潤わせ ・・・
やがて 自分自身が内側からの瑞々しく蘇るのを感じていた。
わたし 生きているのね!
・・・ この場所 すき かも ・・・
この地に根を下ろすのもいいかもしれない ― この頃ではそんな風に思っている。
そんな穏やかな日々の冬も盛り、新年を迎える月の終わり近くのこと。
「 ・・・ フランソワーズ・・・ 」
ジョーが こそっとキッチンに顔を出した。
「 ジョー?? あら お帰りなさい。
・・・?? どうか した? 」
フランソワーズは ケーキ・ミックスを混ぜていたが 思わず手を止めた。
それほど 彼の頬は赤くなっていたのだ。
「 え ・・・ べ べつに ・・・ 」
「 そう? なんか ほっぺ、真っ赤よ? 」
「 あ ・・・ あ あ〜〜 さ 寒いから ・・・ 」
「 ?? そ そうなの?? ( 009ってそういう仕様なのかしら ) 」
「 あの ・・・さ。 これ。 そのう〜〜 誕生日でしょ? 」
彼は 薄い包をおずおずと差し出した。
「 き きみに ・・・ ぷれぜんと・・・ 」
「 え ・・・わたしに? 」
「 うん!!! 」
「 え〜〜〜 嬉しい!! ありがとう〜〜〜 ね 開けていい 」
「 あ・・・ う うん ・・・ いいケド・・・ 」
彼の頬はますます真っ赤になっている。
「 ?? ・・・・ わあ〜〜〜 スカーフ?
・・・ 素敵〜〜〜〜 」
包の中からは アイボリーの艶々光沢のある絹のスカーフ が出てきた。
さっそく 首から巻きつけてみた。
「 すてき〜〜〜 とっても温かくてふんわり軽くて・・・ あ?
まあ イニシャル入り〜〜 」
銀糸で F をデザインして刺繍してある。
「 それ いいよね? ・・・ あ 気に入ってくれた? 」
「 勿論! さ・・・っいこう〜〜〜 メルシ〜〜 ジョー! 」
ちゅ。 ほっぺにキスが落ちてきた
「 うわ・・・ ははは〜〜〜〜 ん 」
「 ジョーってセンスいいのねえ ・・・ ああ あったか〜〜い〜〜 」
「 あ は ・・・ あのう 普段に使ってクダサイ。
ほら・・・レッスンに行く時 とか・・・
この辺は海風が寒いだろ 」
「 ええ ええ。 きゃ〜〜〜 嬉しい〜〜 」
くるくるり。 ・・ ふわ〜〜〜〜・・・
彼女が回ると スカーフはとてつもなく優雅に宙に浮くのだった。
・・・ 赤い特殊な服を纏う時のマフラーとは全く違う。
それは 象牙色の雲みたいに 夢みたいに 揺蕩う。
そう 夢みたい ね・・・
それも温かい 穏やかな夢ね
ああ なんて素敵な手触りなの?
生地というよりも イキモノみたい
シルク ・・・って書いてあるけど
え とても贅沢なものなの・・・?
ふと タグに目が止まり驚いた。
「 ・・・ あの ・・・ ジョー ・・・
これ ・・・シルクなの? そのう とても高価なもの・・・? 」
「 え ? 」
「 だって 昔 シルク製品ってすごく高くて手がでなかったもの 」
「 あ ・・・ あのう〜〜 日本製なんだ ・・・
ブランド物じゃないし ・・・ 地元の特産で ・・・
ごめん そんなに高価じゃないんだ 」
「 そ そうなの?? あ。 そっか シルクは日本の特産品ね
ああ よかった・・・ 素敵なプレゼント ありがとう〜〜 」
「 え へへ ・・・ 気に入ってくれて 嬉しいや
ありがとう 〜〜 」
「 あらあ ありがとう はわたしが言うコトでしょ?
ふふふ 相変わらず ヘンなジョー 」
「 え〜〜 ひどいなあ〜〜 えへへ 」
「 ね ほら・・・ こうやって ・・・
風の中でひらひら・・・ 踊ってるみたいよ 」
「 うわあ ・・・ なんか お日様の下だとすごいね〜〜
光ってる? 」
「 ええ ええ ・・・ シルクって生きてるみたい 」
「 あ う〜ん そうだねえ 」
フランソワーズは ジョーと幼いきょうだいみたいに声を上げ
笑っていた。
アイボリーのスカーフは そんな二人の間で ふうわり ふうわり・・・
海辺からの風にゆれた ・・・
これ とってもキレイで素敵なんだけどぉ
・・・ 綺麗すぎるわあ
それに あ また。 あっちのヒトも ・・・
なんか皆が 見てる・・・気がするのよね
ジョーが贈ってくれたスカーは とても素敵だったし温かいのだが
― 彼女はあまり使えなくなってしまった。
なぜなら ・・・
ぴんぴんに晴れ上がった秋の真っ青な空 ―
その妙〜〜に明るい日差しの下では 目立ちすぎるほどその布は輝いてみえたから。
「 ・・・ 素敵なんだけど ・・・
歩いていると たくさんのヒトがじ〜〜〜っと見るんですよ
これ 本当に目立つんですもの・・・ 」
買い物から帰ると 彼女はぼそぼそぼやくのだ。
「 ほっほ ・・・ それは フランソワーズ お前に
あまりにぴったり似あっているから じゃろ? 」
博士は 可笑しそうに腹を揺すって笑う。
「 え・・ そ そうですか・・・ 」
「 それにな アイツ・・・ まあ 蕩けそうな顔でお前さんを見てるぞ?
そのスカーフは金色の髪に実によう映える。 」
「 ・・・ ふふふ・・・ 嬉しいです 」
「 アイツも案外センスがいいんだなあ
その方面にはとんと不案内か と思っていたがな 」
「 まあ 博士ったら。 でも そうですよねえ・・・
この前も まだダウンジャケットは早いんじゃないの? って言ったら。
パーカーとダウンしか持ってないんだ って。 」
「 おやおや ・・・ 近頃のワカモノはオシャレ、ではなかったのかね 」
「 さあ ・・・ あ でもジェットも服装のセンスは・・・ 」
「 あ〜〜 そうじゃった そうじゃった!
ヤツは 紫のジーンズに緑のパーカーとかだものなあ 」
「 ですよねえ ・・・ 」
「 ふふふ しかしまあ そのスカーフを選んだヤツのセンスは合格じゃな。
ほんによう似合っているよ フランソワーズ 」
「 嬉しいです ・・・ ふふふ じゃ しっかりコートの下に
巻いておこうかな。 襟元から見えると素敵かも ・・・ 」
「 おぉ よいなあ ・・・ 」
「 そうですか? それじゃこうやって使いますね 」
「 本当によく似合っておるよ ・・・
( ふふふ ますますお前の美貌が際立つよ ) 」
岬の洋館では ゆるゆるとごく普通の日々が流れてゆくのだった。
― そんなある日
冬もそろそろ盛りをすぎ 春の足音に耳を澄ますころのこと・・・
しまむら じょー 君には 青天の霹靂 が。
彼がバイトから帰宅すると 彼の想い人嬢は
ごく普通の・当たり前の顔で こう言ったのだ。
「 帰るわ わたし。 」
「 え?? か 帰る ・・・? ど どこへ 」
「 パリに。 」
「 え ど ど どうして?? 」
「 わたしの故郷よ? どうして って ・・・
理由 必要かしら 」
「 あ ・・・ ああ そ そうだよ ね 」
「 チケット、取れたし。 博士のお食事とか、お願いね
あ 花壇にお水も 」
「 あ ・・・ う うん ・・・ 心配ないよ。
あ あのう ・・・ 」
「 ? なあに 」
「 う うん ・・・ いつ帰って きてくれるのか な・・・ 」
「 え?? なあに? よく聞こえなかったわ 」
「 あ な なんでもないよ うん ・・・ 」
「 そう? 」
「 ・・・ あの。 空港まで送ってゆくよ 」
「 あら 大丈夫よ。 ジョー バイトでしょう?
電車のチケットも取れたから 心配しないでね
それよりも 花壇へのお水、忘れないで〜〜 」
「 あ うん ・・・
じゃ そのう 気をつけて ・・・ 」
「 ありがと。 ジョーもね 朝 寝坊しないようにね 」
「 う うん ・・・ 」
二人は じゃあね の握手を笑いながら交わした。
( 片方は かなり引き攣った笑顔 だったけど )
**************
そんなこんなで 今。 フランソワーズは 故郷の街にいる。
「 ・・・ ふう ・・・ 水色の空 ・・・ ね 」
なぜ ・・・って。
そう ねえ ・・・ なぜかしら。
この乾いた空気が懐かしかったのかも
あのね ある朝 突然秋になるの。
街には霧が降りて ソルヴィエの赤い実が揺れるわ。
焼き栗が 食べたかったのかも
マロニエの黄色い落ち葉を踏みたかったのかも
・・・ そう ね ・・・
お兄さんと また暮らしたかったの ね わたし。
「 ― お帰り ファン 」
いきなり帰ってきた妹に 兄は片方の眉を上げただけだった。
少しだけ開けたドアを 大きくひらいた。
「 さっさと入れよ 」
「 あ うん ・・・ 」
ころころころ。
スーツケースを引っ張り彼女は < ウチ > に帰ってきた。
そして ごく普通の生活を ごく普通に ・・・
あの頃と同じに 送り始めた。
兄も ごく普通に当たり前に妹を迎え、二人で暮らしはじめた。
・・・ そう 何年も前と変わらずに・・・
ある日 ― 遅い昼食のテーブルを兄妹で囲んでいた。
「 それ ・・・ いいな。 どこで買った? 」
兄は妹の襟元を指す。
「 お兄ちゃん ・・・・ そう? 」
「 ああ。 お前にぴったりだ。 へえ イニシャル入りかあ 」
「 ふふふ いいでしょう? シルクなのよ 」
「 ブランドものかい 」
「 ま〜〜 いいえ。 ふふふ ナイショ(^^♪ 」
「 ・・・ ふん ? 」
あのスカーフ・・・
すべての色を消したみたない陰鬱な巴里の晩秋、
昼すぎればもう街灯が点る空気の中で 象牙色のスカーフはまことに
しっくりと風景に溶け込んだ。
それでいて 持ち主の胸元で その美貌をより際立たせている。
「 ま 似合ってるぜ。 あ そうだ 」
「 なあに? 」
「 今日さ ちょいと妙なコトがあったんだ ― 」
「 ? 」
穏やかで 平凡な部屋に ― 木枯らしが吹き込んだ ・・・
Last updated : 02.22.2022.
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********** 途中ですが
原作 あのお話 ・ 前夜 です (*´▽`*)
わかりますよね??
いやあ いったい < 何時の事なのか >
悩んだ末 捏造しました、ウソ800万です、
どうぞ 目を瞑ってくださいませ <m(__)m>