『 あなた と わたし と ― (1) ― 』  

 

 

 

    カツン カツン カツン ・・・

 

でこぼこの石畳が 甲高い音をたてる。

 

       ・・・ うん?

 

フランソワーズは 舗道の端に寄り、自分の靴の裏を確かめた。

「 ・・・ あれ。 べつになにも踏んでないわねえ 」

彼女はちょいと首をかしげる。

あまりの靴音の高さが気になってしまったのだ。

「 ヘンねえ・・・ この靴のカカト、そんなに固くないはずよ? 」

しげしげと自分の靴を眺めていたが ―  あ ・・・っと気付いた。

 

「 ・・・ ああ ・・・ すっかり忘れていたわ 」

 

淡く微笑むと 彼女は靴を履き直しそのまま進んで行った。

 

     ふふふ ・・・ そうでした。

     ずっとあそこで過ごしていたから。

 

     そうよ 砂やら土が多いし。

     お稽古場がある街も 緑がたくさんだし。

     

     だから靴音は そんなに聞こえなかったのよ

     ・・・ 湿気の多い空気のせいかもしれないけど。

 

     ねえ ここは わたしの街。

     ― わたし。 巴里の道を忘れていたわ。

 

 

頬まで引き上げていたスカーフを 少し下げた。

つう〜〜ん ・・・ と冷えた大気が咽喉に当たる。

振り仰ぐ空は どんより灰色の雲に覆われ太陽は勿論みえない。

 

「 ふふふ ・・・ そうよね これが深い秋、よね ・・・ 」

 

落とした視線の先には 灯りを点け始めたカフェやら店舗が並ぶ。

行き交う人々も コートの襟を立て頤をマフラーの中に埋めたりしている。

 

「 これが秋の空気 ・・・ ちゃんと知ってるのに。

 ― あの明るい空 たか〜〜く晴れた青空が恋しいのは なぜ・・・? 」

 

指先に当たるスカーフを 口元に持ってゆき軽く唇に当てる。

あの町では あまり使っていなかった ・・・ 暖かすぎるので。

本当は ちょっともったいなくて使えなかっただけど・・・

今 故郷のこの街では温かくのど元を護ってくれているのだ。

 

「 可笑しなフランソワーズ。  ここが故郷 でしょう?

 ずっと帰ってきたかった街 でしょう?  」

肩にかかった大きなバッグを もう一度抱え直した。

「 さあ ― レッスン よ。

 オープン・スタジオだけど なかなか評判がいいらしいわ。

 ねえ フランソワーズ?  踊れるのよ〜〜 」

 

   カツン カツン  カツン −−−−

 

靴音高く 彼女は広い舗道を歩いて行った。

 

 

 

          *************

 

 

 

大脱走やら 各地転戦の後 ― 初めてこの地に定住した頃。

彼はとても張り切っていた。

 

「 あ 買い物?  食料品だよね〜 ぼく 行ってくるよ? 

 あ〜〜 見たい? そっかあ〜 それじゃ 一緒に行こうよ 

スーパーへの買い出しも 率先して出掛けてくれる。

「 荷物?  あは それくらいかる〜〜〜く持てる けど。

 ま いちお〜 周りの目もあるから ・・・ 自転車、もってく。

 うん 荷台に盛り上げてくれていいよ〜〜 」

そして 文字通り 山盛り の荷物を自転車に乗せ

ひょいひょい あの急坂を上ってくる。

 

       へ え ・・・?

       ああ 彼はとても 若い のね ・・・

 

       そうよね ほんの少し前まで

       ホンモノの18歳 だったんだもの

 

       ― 若さって ・・・ 

 

       ああ もう考えるのをやめなくては

 

       元気クン がんばってね

 

ありがたかったけど ちょいとばかり鼻白む気持ちあり、

なんとなく距離をとっていた。       

 

「 あのさ 食品以外だったらね〜 

 駅の向うにでっかいショッピング・モールがあるんだ〜

 行ってみようよ? 」

日用品以外の 個人的な買い物にも気軽に付き合ってくれた。

衣食住 は確保できたが  < 普通に > 暮らしてゆくには

それ以外のモノも必須になってくる。

「 あは オンナノコが好きっぽいお店もいっぱいあるよ?

 うん カード使えるよ。  ぼく 角の本屋で待ってるからさ

 ゆっくり見ておいでよ 

若いわりには 案外細やかに気が回るようだ。

 

       ・・・ へえ ・・・?

       ま 適当に付き合っていけばいっか・・・

       一緒にいても不愉快なヒトではなさそうだし

 

       同じ家で暮らすんですものね

       負の感情は持ちたくないわ

 

彼女は無関心な顔をしていたが しっかりと観察している。

 

「 あ〜〜 なにかあったら 何でも聞いて?

 トウキョウに行く?  送ってゆくよ〜〜 

「 メルシ。  ・・・ あの 大丈夫よ。

 だけど地図とか 描いてくれると助かるんだけど 」

「 地図?  スマホを使ったら?

 あはは ぼく、 絵って得意じゃなくて・・・

 間違えると困るからさあ  ほら・・・ ここ。 マップ って。 」

「 あ ・・・ 随分便利ねえ  」

「 現地撮影動画 もあるよ  こっち  

「 ・・・ わあ ・・・ すごい ・・・ 」

 

教えてもらったスマホ頼りに 都心まで出ることもできた。

 

        なかなか ―  住み易いトコ ね?

 

フランソワーズは 次第にこのちょいと風変りな国になじんでいった。

 

「 ぼく さ。  えへへ ・・・皆に頼りにされるって 初めてなんだ。

 こんなぼくが さ。  ・・・ へへへ 嬉しくて 

 なんかいろいろうるさくきいて ごめん 

最後に加わった茶髪の少年は 照れ笑いをしつつ そんなコトを言う。

彼はこの地域の出身で 地元事情に詳しかった。

ついつい 細かな日常のことも聞いてしまう。

すると 彼は嬉々としてとても丁寧に教えてくれるのだ。

「 ・・・ なんだけど。  あ ぼく 行こうか? 」

「 う〜〜ん ちょっち重たいからさ〜 ぼく やるよ! 

最初は不慣れなこともあり かなり彼に頼ってしまった。

「 あ ありがとう。 でも 教えてもらったから・・・

 自分で行ってみるわね 

フランソワーズも少しづつ < 外の社会 > に

足を踏み出し始めた。

「 そう? なにかあったらすぐに言って・・・

 あ そうだ〜〜 迷惑じゃなかったら ― 買い物、一緒にゆくよ? 」

「 え ・・・ いいの? 」

「 ウン 全然。  下の商店街とかさ 面白いとおもうよ〜 」

「 そ そう?  しょうてんがい って マルシェみたいなとこ? 」

「 まるしぇ? ・・・ あ〜 市場のことかあ ( ← 自動翻訳機使用 )

 あ うん そんなもんさ いろんな店があるよ 

「 ふうん ・・・ 面白そう 」

「 じゃ 行こ!  岬の家に住むことになりました〜〜っていえば

 皆 へえ・・・・ で済むからさ 」

「 そうなんだ ・・・ なんでも知ってるのね 〜〜 」

「 いやあ〜  えへへ  ・・・ なんか 嬉しいや 」

 

そんなこともあり 彼は日々 とてもとても張り切っていた。

 

        へえ ・・・

        なんだか 変わったコねえ

   

        印象的な笑顔ねえ ・・・

        ま 悪い気はしないけど ね

 

東洋人の知り合いは初めてだったが 気持ちのいい同居人だった。

彼も この地での暮らしが、そして 一応 < 家族 > との生活が

気に入っている  らしい。

 

    茶髪の彼は  しまむら じょー  とう名だった。

 

 

― それから。

 

ちょいとした小競り合いやら 面倒事もあったけれど

まずまず ― 穏やかに暮らすことができた。

レッスンに参加できるバレエ・スタジオを見つけ 再び踊りの世界へ

足を踏み入れた。  そして夢中になった。

 

 ―  フランソワーズ自身も この家での生活が気に入り始めている。

 

 

 

「 あの・・・ バイト 行ってくるね〜 」

ジョーが ダウン・ジャケットをもこもこさせている。

「 あら ・・・ その恰好、ちょっと早くない? 

 真冬に着るものでしょう? そのジャケット ・・・ 多分。 」

「 え? あ そっかな ・・・ ぼくさ パーカーの後は

 いっつもダウンなんだ ・・・ それっきゃもってなくて・・・

 ははは  あ  イッテキマス。 」

「 そう?  あ〜〜 < おべんとう > 作ったの!

 サンドイッチだけど ・・・ よければ持っていって・・・ 」

「 え!?  うわ〜〜〜 うわ〜〜〜 ありがとう!! 」

「 ・・・ あのう ごく普通のサンドイッチなんだけど  

 いいの?  日本風の おべんとう じゃないけど・・・ 」

「 いい いい!! 手作りの弁当って最高だよぉ〜〜〜

 サンキュ〜〜〜〜   あ  めるし〜〜〜 

 わあい〜〜  イッテキマス〜〜〜 」

ジョーは 差し出された包を両手で受け取り 

文字通り 小躍りしつつ出掛けて行った。

「  ― いってらっしゃい ・・・

 やっぱ 変わってるわねえ ・・・ ジョーって ・・・ 」

ぴんぴん癖毛を揺らし 遠ざかってゆく姿を

彼女は 妙に感心しつつ見送った。

「 ただのサンドイッチなのに ・・・ そんなに嬉しいのかなあ 

 うふふ  ちょっとうれしいかも・・・

 彼 なにが好きなのかしら ・・・ 日本人ってどんなの 食べてるかしら  」

彼は 本当にぴんこ ぴんこ跳ねて坂を降りてゆく。

「 なんか・・・うさぎ というより 喜んでいるわんこさんみたいね〜

 ジョーって 楽しい人 なのかなあ  ふふふ ・・・ 」

 

笑みがこぼれてきたが ふと。 足が止まった。

 

      あれが  彼の本質 なの・・?

 

      ― え?  あれが 009 ??

      

戦闘中の あの冷徹で冴えた視線。 そして 仮面のような顔。

側にいるだけでも ぴりりと殺気を感じ鳥肌がたつ思いだった。

最後に仲間になって戸惑っていたのはほんの最初だけで 

彼は闘いの度にその鋭さを増して行った。

 

      ・・・ すご  い ・・・・

      どんどん強くなってゆくわ

 

      闘うマシン になれるのね

 

 ― これが < 最新型 > なのか、と痛感してしまった。

戦闘の中での009を思い出すと ひやりと心が冷える。

 

      ・・・ 本当の しまむら じょー って ?

      彼は  ほんとうの彼は  どんなヒトなの

 

      009 が 彼なの それとも

      しまむら じょー が 彼なのかしら

 

       ―  怖い ・・・ ひと       

 

思わず沸いてきた思いを 慌てて打ち消した。

この明るい空の元では 考えられないことだ、と思ったからだ。

 

      ううん  ううん!

      きっとそれは ― 異常な状況での幻覚 

 

      そうよ そうに違いないわ

      だって ―

 

      彼には あの微笑がぴったりだもの

 

アタマを振って 暗い思いを追い出した。

目を凝らせば ぴんこぴんこ跳ねる姿が坂の下に消えるところだった。

 

「 ・・・ ふう ・・・ イッテラッシャイ 」

 

 いってらっしゃ〜い  と 手を振って誰かを送りだす ―

そんなごく普通のコト にも胸がチリリ・・・と傷んだ。

ごく当たり前の日々 が こんなにも新鮮に思える ― そのこと自体に

ぞっとし 背筋に冷たいものが走ってしまう。

 

     こんな日 ・・・ あった かしら ・・・

 

     ・・・ああ あったかもしれないわ

     そう 普通のヒトとして 生きていたころ・・・

 

「 お兄ちゃん ・・・ そうだわ  アパルトマンの窓から出勤してゆく

 兄さんに手を振ってたっけ ・・・

 パリの空は いつまでも灰色で ・・・

 そうよ 春も盛りのころにやっと青くなってたわね 

 

この真っ青の空 ― 初冬のきんきんに晴れた空・・・

その果ての果てまで追ってゆけば あの頃に戻れる  かもしれない。

 

何も知らず 明日は今日と同じ日が必ず来る と信じて疑わなかった頃に。

傷つきやすい、しかし驚くほどしなやかである意味強靭な肉体に

いつもしっかりと前を見つめるこころを入れて ― 笑っていた時代に ・・・

 

       戻れる   かしら ・・・

 

彼女はごく自然に 記憶を遡らせてゆく。

 

     ・・・ お兄さん ・・・

     ランチを作ったことはなかったけど

     もし 作ってたら 持っていってくれた?

 

     ああ そうだわ

     お母さんから習ったミート・パイ、

     大好物って言ってくれたっけ・・

 

     どうしても仕事に持ってゆく、というから

     切り分けてタッパーに入れたっけ・・・

 

     < おべんとう > っていうの、いいわよね 

     そうだ、今度 日本風のおべんとう にも

     挑戦してみるわ !

 

日常の ほんの当たり前のことも新鮮に思えた。

明日が今日の延長で 穏やかに過ぎてゆくことに感動していた。

そんな 彼らには この人里離れた辺鄙な地、

海辺の崖に建つ邸は 恰好の隠れ家だった。

あまりな運命の大嵐に翻弄され 文字通りの逃亡劇の末の日々・・・

擦り切れそうな心と身体を メンバーの誰もがゆっくりと癒していった。

 

ここにずっと暮らす ― そう決心した彼女には 一際その感が強かった。

今まで 気付かず過ごしてきたことに 目を見張る。

それだけの 余裕が生まれた、ということなのだろうか・・・

 

     波の音って  時間によって変わるのね

 

     こ・・・んなに青いの??  空って・・・

 

     温かいわ ・・・ 冬なのに日焼けしそうよ? 

 

     え この赤い葉っぱって 造花みたい ・・・

 

フランソワーズは なにげない日差しの温もりや 葉っぱの影に 

こころを魅かれ 満たされ 潤わせ ・・・

やがて 自分自身が内側からの瑞々しく蘇るのを感じていた。

 

     わたし   生きているのね!

 

     ・・・ この場所 すき かも ・・・

 

この地に根を下ろすのもいいかもしれない ― この頃ではそんな風に思っている。

 

 

そんな穏やかな日々の冬も盛り、新年を迎える月の終わり近くのこと。

 

「 ・・・ フランソワーズ・・・ 」

ジョーが こそっとキッチンに顔を出した。

「 ジョー?? あら お帰りなさい。  

 ・・・??  どうか した? 

フランソワーズは ケーキ・ミックスを混ぜていたが 思わず手を止めた。

それほど 彼の頬は赤くなっていたのだ。

「 え  ・・・ べ べつに ・・・ 」

「 そう?  なんか ほっぺ、真っ赤よ? 」

「 あ ・・・ あ あ〜〜  さ 寒いから  ・・・ 」

「 ??  そ そうなの?? ( 009ってそういう仕様なのかしら ) 」 

「 あの ・・・さ。  これ。 そのう〜〜 誕生日でしょ? 」

彼は 薄い包をおずおずと差し出した。

「 き  きみに ・・・ ぷれぜんと・・・ 」

「 え ・・・わたしに? 」

「 うん!!! 

「 え〜〜〜 嬉しい!! ありがとう〜〜〜  ね 開けていい 」

「 あ・・・ う  うん ・・・ いいケド・・・ 」

彼の頬はますます真っ赤になっている。

「 ??   ・・・・ わあ〜〜〜 スカーフ?

 ・・・ 素敵〜〜〜〜 

包の中からは アイボリーの艶々光沢のある絹のスカーフ が出てきた。

さっそく 首から巻きつけてみた。

「 すてき〜〜〜 とっても温かくてふんわり軽くて・・・ あ?

 まあ イニシャル入り〜〜 」

銀糸で F をデザインして刺繍してある。

「 それ いいよね?  ・・・ あ 気に入ってくれた? 」

「 勿論! さ・・・っいこう〜〜〜 メルシ〜〜 ジョー! 」

 

     ちゅ。  ほっぺにキスが落ちてきた

 

「 うわ・・・ ははは〜〜〜〜 ん 」

「 ジョーってセンスいいのねえ ・・・ ああ あったか〜〜い〜〜 」

「 あ は ・・・ あのう 普段に使ってクダサイ。

 ほら・・・レッスンに行く時 とか・・・

 この辺は海風が寒いだろ 」

「 ええ ええ。 きゃ〜〜〜 嬉しい〜〜 」

 

  くるくるり。   ・・ ふわ〜〜〜〜・・・

 

彼女が回ると スカーフはとてつもなく優雅に宙に浮くのだった。

・・・ 赤い特殊な服を纏う時のマフラーとは全く違う。

それは 象牙色の雲みたいに 夢みたいに 揺蕩う。

 

     そう 夢みたい ね・・・

     それも温かい 穏やかな夢ね

 

     ああ なんて素敵な手触りなの? 

     生地というよりも イキモノみたい

 

     シルク ・・・って書いてあるけど

     え  とても贅沢なものなの・・・?

 

ふと タグに目が止まり驚いた。  

「 ・・・ あの ・・・ ジョー ・・・

 これ ・・・シルクなの? そのう とても高価なもの・・・? 

「 え ? 」

「 だって 昔 シルク製品ってすごく高くて手がでなかったもの 」

「 あ ・・・ あのう〜〜  日本製なんだ ・・・

 ブランド物じゃないし ・・・ 地元の特産で ・・・

 ごめん そんなに高価じゃないんだ 」

「 そ そうなの??   あ。 そっか シルクは日本の特産品ね

 ああ よかった・・・ 素敵なプレゼント ありがとう〜〜 」

「 え へへ ・・・ 気に入ってくれて 嬉しいや 

 ありがとう 〜〜 

「 あらあ ありがとう はわたしが言うコトでしょ?

 ふふふ   相変わらず ヘンなジョー 」

「 え〜〜 ひどいなあ〜〜 えへへ 」

「 ね ほら・・・ こうやって ・・・ 

 風の中でひらひら・・・ 踊ってるみたいよ 」

「 うわあ ・・・ なんか お日様の下だとすごいね〜〜

 光ってる? 」

「 ええ ええ  ・・・ シルクって生きてるみたい 」

「 あ う〜ん そうだねえ  」

フランソワーズは ジョーと幼いきょうだいみたいに声を上げ

笑っていた。

アイボリーのスカーフは そんな二人の間で ふうわり ふうわり・・・

海辺からの風にゆれた ・・・

 

 

     これ とってもキレイで素敵なんだけどぉ

     ・・・ 綺麗すぎるわあ

 

     それに  あ また。 あっちのヒトも ・・・

     なんか皆が 見てる・・・気がするのよね

 

ジョーが贈ってくれたスカーは とても素敵だったし温かいのだが

 ― 彼女はあまり使えなくなってしまった。

なぜなら ・・・

ぴんぴんに晴れ上がった秋の真っ青な空 ―

その妙〜〜に明るい日差しの下では 目立ちすぎるほどその布は輝いてみえたから。

 

「 ・・・ 素敵なんだけど ・・・

 歩いていると たくさんのヒトがじ〜〜〜っと見るんですよ

 これ 本当に目立つんですもの・・・ 」

買い物から帰ると 彼女はぼそぼそぼやくのだ。

「 ほっほ ・・・ それは フランソワーズ お前に

 あまりにぴったり似あっているから じゃろ? 」

博士は 可笑しそうに腹を揺すって笑う。

「 え・・ そ そうですか・・・ 」

「 それにな アイツ・・・ まあ 蕩けそうな顔でお前さんを見てるぞ?

 そのスカーフは金色の髪に実によう映える。 」

「 ・・・ ふふふ・・・ 嬉しいです 」

「 アイツも案外センスがいいんだなあ

 その方面にはとんと不案内か と思っていたがな 」

「 まあ 博士ったら。  でも そうですよねえ・・・

 この前も まだダウンジャケットは早いんじゃないの? って言ったら。

 パーカーとダウンしか持ってないんだ って。 」

「 おやおや ・・・ 近頃のワカモノはオシャレ、ではなかったのかね 」

「 さあ ・・・  あ でもジェットも服装のセンスは・・・ 」

「 あ〜〜 そうじゃった そうじゃった!

 ヤツは 紫のジーンズに緑のパーカーとかだものなあ 」

「 ですよねえ ・・・ 」

「 ふふふ  しかしまあ そのスカーフを選んだヤツのセンスは合格じゃな。

 ほんによう似合っているよ フランソワーズ 」

「 嬉しいです ・・・ ふふふ じゃ しっかりコートの下に

 巻いておこうかな。 襟元から見えると素敵かも ・・・ 」

「 おぉ  よいなあ ・・・ 」

「 そうですか? それじゃこうやって使いますね 」

「 本当によく似合っておるよ ・・・

 ( ふふふ  ますますお前の美貌が際立つよ ) 」

 

 

岬の洋館では ゆるゆるとごく普通の日々が流れてゆくのだった。

 

 

 ―  そんなある日

冬もそろそろ盛りをすぎ 春の足音に耳を澄ますころのこと・・・

 

しまむら じょー 君には 青天の霹靂 が。

 

彼がバイトから帰宅すると 彼の想い人嬢は

ごく普通の・当たり前の顔で  こう言ったのだ。

「 帰るわ わたし。 」

「 え??  か 帰る ・・・? ど どこへ 」

「 パリに。 」

「 え  ど ど どうして?? 」

「 わたしの故郷よ?  どうして って ・・・ 

 理由 必要かしら 」

「 あ ・・・ ああ  そ そうだよ ね 」

「 チケット、取れたし。  博士のお食事とか、お願いね 

 あ 花壇にお水も

「 あ ・・・ う  うん ・・・ 心配ないよ。 

 あ あのう ・・・ 」

「 ? なあに 

「 う うん ・・・ いつ帰って きてくれるのか な・・・ 」

「 え?? なあに?  よく聞こえなかったわ 」

「 あ  な なんでもないよ  うん ・・・ 」

「 そう? 」

「 ・・・ あの。 空港まで送ってゆくよ 

「 あら 大丈夫よ。 ジョー バイトでしょう?

 電車のチケットも取れたから  心配しないでね 

 それよりも 花壇へのお水、忘れないで〜〜 」

「 あ  うん ・・・ 

 じゃ  そのう 気をつけて ・・・ 」

「 ありがと。 ジョーもね 朝 寝坊しないようにね 」

「 う  うん ・・・ 」

 

二人は じゃあね の握手を笑いながら交わした。

( 片方は かなり引き攣った笑顔 だったけど )

 

 

         **************

 

 

そんなこんなで  今。  フランソワーズは 故郷の街にいる。

「 ・・・ ふう ・・・ 水色の空 ・・・ ね 」

 

      なぜ ・・・って。

   

      そう ねえ ・・・ なぜかしら。

 

      この乾いた空気が懐かしかったのかも

      あのね ある朝 突然秋になるの。

      街には霧が降りて ソルヴィエの赤い実が揺れるわ。

 

      焼き栗が 食べたかったのかも

      マロニエの黄色い落ち葉を踏みたかったのかも

 

      ・・・ そう ね ・・・

      お兄さんと また暮らしたかったの ね わたし。

 

 

「 ―  お帰り  ファン 」

 

いきなり帰ってきた妹に 兄は片方の眉を上げただけだった。

少しだけ開けたドアを 大きくひらいた。

「 さっさと入れよ 」

「 あ  うん ・・・ 」

 

   ころころころ。  

 

スーツケースを引っ張り彼女は < ウチ > に帰ってきた。

そして ごく普通の生活を ごく普通に ・・・

あの頃と同じに 送り始めた。

兄も ごく普通に当たり前に妹を迎え、二人で暮らしはじめた。

 ・・・ そう 何年も前と変わらずに・・・

 

ある日 ― 遅い昼食のテーブルを兄妹で囲んでいた。

「 それ ・・・ いいな。 どこで買った? 」

兄は妹の襟元を指す。

「 お兄ちゃん ・・・・ そう? 」

「 ああ。 お前にぴったりだ。  へえ イニシャル入りかあ 」

「 ふふふ いいでしょう? シルクなのよ 」

「 ブランドものかい  」

「 ま〜〜 いいえ。 ふふふ ナイショ(^^♪ 」

「 ・・・ ふん ? 」

 

あのスカーフ・・・

すべての色を消したみたない陰鬱な巴里の晩秋、

昼すぎればもう街灯が点る空気の中で 象牙色のスカーフはまことに

しっくりと風景に溶け込んだ。

それでいて 持ち主の胸元で その美貌をより際立たせている。

 

「 ま 似合ってるぜ。  あ そうだ 

「 なあに? 」

「 今日さ ちょいと妙なコトがあったんだ ―  」

「  ?  」

 

穏やかで 平凡な部屋に  ―  木枯らしが吹き込んだ ・・・

 

Last updated : 02.22.2022.            index       /      next

 

**********   途中ですが

原作 あのお話 ・ 前夜  です (*´▽`*)

わかりますよね?? 

いやあ いったい < 何時の事なのか > 

悩んだ末  捏造しました、ウソ800万です、

どうぞ 目を瞑ってくださいませ <m(__)m>